公表内容
事案の内容:本件は、適格消費者団体である特定非営利活動法人埼玉消費者被害をなくす会(以下「原告」という。)が、各種情報処理サービス及び情報提供サービス、ホームページの企画、製作及び運営を目的とする株式会社ディー・エヌ・エー(以下「被告」という。)が不特定かつ多数の消費者との間でポータルサイト「モバゲー」に関してモバゲー会員規約(以下「本件規約」という。)を含むサービス提供契約(以下「本件契約」という。)を締結するに当たり、消費者契約法(以下「法」という。)第8条第1項第1号及び第3号(※)に規定する消費者契約の条項に該当する以下の条項(以下「本件契約条項」という。)を含む契約の申込み又は承諾の意思表示を現に行い、又は行うおそれがあると主張して、被告に対し、法第12条第3項の規定に基づき、本件契約条項を含む消費者契約の申込み又は承諾の意思表示の停止、及び、これらの行為の停止又は予防に必要な措置として上記意思表示を行うための事務を行わないことを被告の従業員らに指示することを求めた事案である(平成30年7月9日付けでさいたま地方裁判所に対して訴訟を提起)。 <本件契約条項>1 第7条 モバゲー会員規約の違反等について 3項 当社の措置によりモバゲー会員に損害が生じても、当社は、一切損害を賠償しません。2 第12条 当社の責任 4項 本規約において当社の責任について規約していない場合で、当社の責めに帰すべき事由によりモバゲー会員に損害が生じた場合、当社は、1万円を上限として賠償します。(※)消費者契約法(事業者の損害賠償の責任を免除する条項の無効)第八条 次に掲げる消費者契約の条項は、無効とする。一 事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除する条項二 〔略〕三 消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除する条項四・五 〔略〕2 〔略〕(注)上記の訴訟が提起された日現在の規定 結果:さいたま地方裁判所は、令和2年2月5日、次のとおり判断して、原告の請求を一部認容した(被告に対し、本件契約条項1を含む契約の申込み又は承諾の意思表示の停止及び上記意思表示を行うための事務を行わないことを被告の従業員らに指示することを命じた。)。なお、被告は、当該判決を不服として東京高等裁判所に控訴した。 当該裁判の主たる争点:ア 主たる争点 ⅰ)本件契約条項1の法第8条第1項第1号及び第3号該当性 ⅱ)本件契約条項2の法第8条第1項第1号及び第3号該当性 イ 主たる争点についての裁判所の判断の概要 【争点ⅰ】 ㈠ 契約条項が不明確な場合と法第12条第3項における消費者契約の不当条項該当性の判断の在り方 適格消費者団体による事業者に対する差止請求は、その対象となる消費者契約の中に、法第8条から第10条までに規定する消費者契約の条項(以下「不当条項」という。)が含まれていることがその要件とされているところ、この不当条項該当性の有無を判断するに当たっては、その前提として、当該消費者契約の中の特定の条項の意味内容を定める必要が生じる。 法は、消費者と事業者とでは情報の質及び量並びに交渉力に格差が存することに照らし、法第3条第1項において、事業者に対し、消費者契約の条項を定めるに当たっては、消費者契約の内容が、その解釈について疑義が生じない明確なものであって、かつ、消費者にとって平易なものになるよう配慮することを求めていることに照らせば、事業者は、消費者契約の条項を定めるに当たっては、当該条項につき、解釈を尽くしてもなお複数の解釈の可能性が残ることがないように努めなければならないというべきである。 加えて、差止請求制度は、個別具体的な紛争の解決を目的とするものではなく、契約の履行などの場面における同種紛争の未然防止・拡大防止を目的として設けられたものであることをも勘案すると、差止請求の対象とされた条項の文言から読み取ることができる意味内容が著しく明確性を欠き、契約の履行などの場面においては複数の解釈の可能性が認められる場合において、事業者が当該条項につき自己に有利な解釈に依拠して運用していることがうかがわれるなど、当該条項が免責条項などの不当条項として機能することになると認められるときは、法第12条第3項の適用上、当該条項は不当条項に該当すると解することが相当である。 ㈡ 本件契約条項1の「当社の措置」の具体的な内容について 本件規約第7条第1項は、モバゲー会員が同項各号に該当した場合、被告の定める期間、モバゲー内で会員に提供する一切のサービスの利用を認めない旨や、モバゲー会員の会員資格を取り消すことができる旨を定めているところ、同項は、モバゲー会員が同項各号に該当した場合、被告が利用停止措置又は会員資格取消措置(本件契約の解除)をとることにより、被告のモバゲー会員に対するサービスを提供する債務の発生を阻止し又は消滅させることができることを規定したものといえる。 被告は、本件契約に関し、本件規約のほかに個別規約を設けているところ(本件規約第1条第3項)、本件規約第7条第1項第c号は、「他のモバゲー会員に不当に迷惑をかけたと当社が判断した場合」、第e号は「その他、モバゲー会員として不適切であると当社が判断した場合」について、被告が会員資格取消措置等をとることができる旨を規定している。 第c号の「他のモバゲー会員に不当に迷惑をかけた」という要件は、その文言自体が、客観的な意味内容を抽出し難いものであり、その該当性を肯定する根拠となり得る事情や、それに当たるとされる例が本件規約中に置かれていないことと相まって、それに続く「と当社が判断した場合」という要件の「判断」の意味内容は、著しく明確性を欠くと言わざるを得ない。すなわち、上記要件の文言からすると、被告は上記「判断」を行うに当たって極めて広い裁量を有し、客観性を十分に伴う判断でなくとも許されると解釈される余地があり、上記の「判断」が「合理的な根拠に基づく合理的な判断」といった通常の裁量の範囲内で行われると一義的に解釈することは困難である。 また、第e号は、「その他、モバゲー会員として不適切であると当社が判断した場合」との要件であるが、同号の前に規定されている第a号、第b号及び第d号はその内容が比較的明確であり、裁量判断を伴う条項ではないのに対し、第e号については、「その他」との文言により第c号を含む各号と並列的な関係にある要件として規定されつつも、第c号と同じ「判断した場合」との文言が用いられていることから、第c号の解釈について認められる上記の不明確性を承継するものとなっている。 被告は、法第12条第3項における不当条項該当性の判断において、契約条項を合理的に解釈をすることは当然であると主張し、限定解釈を施すことは妨げられない旨の判示をした裁判例(東京高等裁判所平成30年(ネ)第2658号(平成30年11月28日判決))を指摘するが、当該裁判例は、「当社は、この約款を変更することがあります。この場合には、料金その他の提供条件は、変更後の約款によります。」との条項につき、約款の変更は一定の合理的な範囲においてのみ許されるという一般的な法理が存在することを前提として、上記の条項がその法理と同旨のものと解釈することができるとしたものにすぎず、差止請求の対象とされた条項の文言から読み取ることができる意味内容が著しく明確性を欠く場合一般について判示したものではないと解され、上記の被告の主張は採用することはできない。 ㈢ 本件契約条項1の法第8条該当性 本件契約条項1は、単に「当社の措置により」という文言を使用しており、それ以上の限定が付されていないことからすると、本件規約第7条第1項第c号又は第e号該当性につき、その「判断」が十分に客観性を伴っていないものでも許されるという上記(二)の解釈を前提に、損害賠償責任の全部の免除を認めるものであると解釈する余地があるのであって、被告が主張するような「合理的な根拠に基づく合理的な判断」を前提とするものと一義的に解釈することは困難である。そうすると、本件契約条項1は、本件規約第7条第1項第c号又は第e号との関係において、その文言から読み取ることができる意味内容が、著しく明確性を欠き、契約の履行などの場面においては複数の解釈の可能性が認められるといわざるを得ない。他方、被告は、本件規約第7条第1項第c号又は第e号の「判断」とは「合理的な根拠に基づく合理的な判断」を意味するとの主張をしながらも、そのように文言を修正することを拒絶しており、また、本件契約条項1につき、「当社の責めに帰すべき事由による場合を除き」といった文言を付加するような修正はしないとの立場を明らかにしているところ、モバゲー会員からの全国消費生活情報ネットワークシステムに対する相談に現れた被告のモバゲー会員に対する対応ぶりにも照らせば、被告は、上記のような文言の修正をせずにその不明確さを残しつつ、当該条項を自己に有利な解釈に依拠して運用しているとの疑いを払拭できないところである。 以上により、本件契約条項1は、免責条項として機能することになると認められる。 したがって、法第12条第3項の適用上、本件契約条項1は、「事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除」する条項に当たり、また、「消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除」する条項に当たるから、法第8条第1項第1号及び第3号の各前段に該当するというべきである。 【争点ⅱ】 本件契約条項2は、被告の責めに帰すべき事由がある場合の債務不履行又は不法行為により消費者に生じた損害を、1万円を上限として賠償する旨を規定した条項であるところ、本件契約条項2が「本規約において当社の責任について規定していない場合で」と明示していることからすれば、本件契約条項1により免責がされる場合とは独立して、責任の全部の免除をすることができることを規定しているものではないことは明らかである。 そうすると、本件契約条項2は、「事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除し」又は「消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除」することを内容とする条項ではないから法第8条第1項第1号及び第3号の各前段に該当しない。
- Classification
- 中立的な公的活動
- Record nature
- 中立的な公的活動
- Event type
- consumer_injunction_publication
- Event date
- 2020年2月5日
- Announced
- 未収録
- Effective from
- 未収録
- Effective to
- 未収録
- Record status
- 終了
- Status as of
- 未収録