公表内容
事案の内容:本件は、適格消費者団体である公益社団法人全国消費生活相談員協会(以下「原告」という。)が、複数の有料老人ホームを経営する東急不動産株式会社(以下「被告」という。)に対し、被告が入居者との間で一括払方式の入居契約(以下「本件入居契約」という。)を締結する際に使用している契約書(以下「本件契約書」という。)について、前払金を徴収し、その一部を居住期間にかかわらず返還しないこととしている契約条項(以下「本件不返還条項」という。)は、消費者の利益を一方的に害するもので消費者契約法(以下「法」という。)第10条の規定により無効であるにもかかわらず、被告は本件不返還条項を含む消費者契約の申込み又は承諾の意思表示を現に行い又は行うおそれがあるとして、法第12条第3項本文の規定に基づき、当該行為の停止等を求めた事案である(平成28年3月14日付けで東京地方裁判所に訴えを提起)。 結果:東京地方裁判所は、平成29年4月25日、以下のように判断した上で、原告の請求を全て棄却した(原告は、平成29年5月8日付けで東京高等裁判所に控訴した。)。 当該裁判の主たる争点:ア 主たる争点 本件不返還条項が法第10条に違反するか否か。イ 主たる争点についての裁判所の判断① 本件不返還条項が法第10条前段に違反するか否か。 ㈠ 本件不返還条項の趣旨について 本件不返還条項は、老人福祉法施行規則(昭和38年厚生省令第28号)の改正(平成24年1月30日公布、同年4月1日施行)に伴う「有料老人ホームの設置運営標準指導指針について」(平成14年7月18日老発第0718003号厚生労働省老健局長通知)の平成24年3月16日改正により、同日に同局高齢者支援課が発出した「有料老人ホームにおける家賃等の前払金の算定の基礎及び返還債務の金額の算定方法の明示について」と題する事務連絡において返還しないことが認められている超過期間のための受領金の不返還を定めるものとして規定されたものであると解することができる。 なお、平成28年5月16日付けで改訂する以前に被告が消費者との間で一時金払方式の入居契約を締結するに当たり使用していた契約書においては、前払金の総額の算定に当たり「月額賃料」という要素が用いられているが、その実質は、「前払賃料」と「保険料」の合計額を想定居住月数で除したものであり、「保険料」部分も含むものであるから、「月額賃料」という用語から直ちにその一部の不返還が入居者の終身にわたる居住が平均的な余命等を勘案して想定される期間(以下「想定居住期間」という。)に応じた賃料の一部を返還しないものであると解することはできない。 ㈡ 法第10条前段違反の有無 被告が消費者との間で老人ホームについて締結する本件入居契約は、本件契約書の内容に照らせば、賃貸借の要素は含むものの、複合的な非典型契約であって、賃貸借契約そのものではないということができる。 したがって、本件契約書において建物賃貸借契約上建物賃借人が負うべき負担以外の負担を課す条項が含まれていても、そのことから直ちに、建物賃借人である消費者の権利を制限等するもので法第10条前段に違反するということはできない。 そして、超過期間のための受領金は、将来、想定居住期間を超えて居住する場合の費用を相互扶助の観点から前払方式を選択した入居者全員で分担するものであり、想定居住期間を超えた場合に、追加出資を求められることなく居住が続けられるという自らの利益を得るための費用ということができるから、対価性がないということはできない。 以上によれば、複合的な性質を有する本件入居契約において、入居者が上記の対価性を有する金員の負担をすることとしても、賃貸借契約に比して消費者の権利を制限し、又は義務を加重するということはできない。② 本件不返還条項が法第10条後段に違反するか否か。 ㈠ 本件不返還条項及び算定方法の合理性 本件不返還条項は、①㈠のとおり、想定居住期間に応じた賃料の一部を返還しないものと解することはできず、①㈡のとおり超過期間のための受領金が相互扶助的な性格を有すること、仮に入居者が想定居住期間に応じた負担しかしないとすれば、これを超えた入居者が生じた場合に事業者に大きな負担が生じることになることに照らせば、保険金と同様、入居者全員が負担額を抑えつつ、これにつき不返還とすることに合理性が存しないということはできない。 また、本件契約書においては、前払金の額及びそこから算定される超過期間のための受領金の額は、平均余命を主たる考慮要素として算定されるものとされているが、平均余命が厚生労働省において発表する簡易生命表という公的資料に基づくものである一方で、入居契約の解除、解約の実態、超過期間のための受領金の再度の受領といった事情について、厳密にこれを反映することには困難が伴うものということができるから、被告の算定方法が不当であるとまでいうことはできないし、算定方式自体についても合理性がないとはいえない。 ㈡ 本件不返還条項が老人福祉法第29条第6項の趣旨に反するか否か老人福祉法(昭和38年法律第133号)第29条第6項は、「家賃、敷金及び介護等その他の日常生活上必要な便宜の供与の対価」以外の金品の受領を禁止しているところ、同法施行規則第21条第2項第2号において、契約の終了時期に応じて前払金の返還範囲が別に規定されていることに照らしても、同項が前払金の一部についておよそ返還しないことを禁止する趣旨であるとまで解することはできない。 そして、超過期間のための受領金は、自らが将来、想定居住期間を超えて居住する利益の対価たる性質を有するものであるところ、その利益は将来のものであるとしても、その内容は老人ホームにおける居住という利益であることに変わりはないから、これの対価は、同項が掲げる「日常生活上必要な便宜の供与の対価」に含まれると解するのが相当である。 したがって、本件不返還条項が老人福祉法第29条第6項の趣旨に反するとはいえない。 ㈢ 本件不返還条項が被告と入居者の利害が対立する関係を生じさせ、被告において恣意的に入居者の早期退去を促進する状況を作出する事態を誘発するか否か被告は、入居者との入居契約により、適切に老人ホームにおけるサービスを提供する義務を負っているのであり、上記状況から直ちに当該危険が誘発されるということはできない。③ 結論 以上によれば、本件不返還条項が法第10条に違反するとは認められない。
- Classification
- 中立的な公的活動
- Record nature
- 中立的な公的活動
- Event type
- consumer_injunction_publication
- Event date
- 2017年4月25日
- Announced
- 未収録
- Effective from
- 未収録
- Effective to
- 未収録
- Record status
- 終了
- Status as of
- 未収録